健康で快適な室内環境を実現する「パッシブ換気」を解説します

憧れのマイホームを実現しても、ダニやカビ、結露などによるアレルギーや喘息などの健康問題、住宅の劣化などに直面したら…。

家を建てる人が見落としがちなのが「換気」

住宅の換気システムは、とても多くの課題があるにも関わらず、マイホームを建てる人の多くが「換気」にさほど注目していません。住宅メーカー・工務店側もお客様に十分な説明をしない傾向があります。

「予算」「間取り」「デザイン」「キッチン」などのほうが、お客様の興味があるテーマだからかもしれません。

換気がきちんと機能していない「問題あり」の住宅は皆さんが思われているよりずっと多い。健康問題にもつながる住宅の換気についてお話します。

家の中では水蒸気もにおいも増え続ける

住宅の内部には、住まい手の生活に関するさまざまなこと(調理・呼吸・発汗・入浴・排泄・喫煙など)により、二酸化炭素や水蒸気、臭気などさまざまなものが溜まっていきます。

ペットのにおいや、家具やカーペットなどからのホルムアルデヒドなど揮発性有機化合物(VOC)も増えていきます。

住宅の換気が不十分だと、水蒸気量が増え、温度の低い部分が結露やカビの温床になるばかりでなく、壁内の木材や断熱材を劣化させたりもします。

カビの胞子やダニ、揮発性有機化合物(VOC)は、アレルギーや喘息のきっかけにもなり、住まい手の健康にも少しずつダメージを与えます。焼肉やペットなどのにおいは、たとえ住まい手が気づかなくても家に染みつき、来客は気づきます。

家づくりの局面で「換気」をどうするかは家族の健康、住み心地、住宅の寿命に関わる大きなテーマです。

機械換気が主流。でも深刻な問題がある

北海道立総合研究機構 北の住まいづくりパンフレットより

換気方式にはそれぞれメリットデメリットがありますが、住宅会社はそれぞれ、自社の換気方式をある程度決めています。

つまり住宅会社を選ぶ前に、換気方式をどれにするか、先に決めておかないと家づくりに失敗する可能性もあるのです。

玄関横に立ち上がる2本の給気取り入れ口と屋根に突き出た排気筒が印象的なパッシブ換気住宅

外気のフレッシュな空気を室内に取り込み、代わりに、汚れた空気を屋外に排出するのが住宅の換気です。

建築基準法では、ホルムアルデヒドなど、有害化学物質による健康被害を防ぐため、1時間の間に、室内の空気の約半分以上を入れ替えるよう、換気回数の基準(換気回数0.5回/h以上)が定められています。

窓の開閉などでも一時的な換気はできますが、常時、健康的な室内空気環境を維持するために、1時間置きに家全体の窓を開閉する、というのは現実的ではありませんね。

特に北海道では、冬に窓を開けて外気を直接取り入れる換気は、室内が寒くなるので、現実には無理でしょう。

そこで現代の住宅では、機械換気設備(いわゆる24時間換気システム等)が設置されています。

機械換気は24時間絶え間なくモーターが動き、自動で換気が稼働し続けられるメリットがあります。一方で、住宅会社は、お客様にほとんど説明することはありませんが、機械換気にはいくつか大きな、深刻な課題があります。

3カ月に1回、家じゅうのフィルターを掃除できますか?

まず第1に、機械換気は屋外から室内に空気を取り込む「給気口」にフィルターが設置されています。

機械換気は、給気口か排気口のどちらか、あるいは両方に機械を設置して強制的に空気を動かします。

機械の力で屋外と室内の空気を24時間休みなく入れ替えているので、ほこりや花粉、虫など、屋外のいろいろなものが室内に入りやすい仕組みです。

だから給気口にフィルターを付けて、ほこりなどの侵入を防ぐ必要があります。排気口の側からも虫などの侵入を防ぐために目の粗い網が設置されています。

その結果、当然ですが、給気口に設置してあるフィルターには、花粉やほこり、虫、PM2.5などが付着します。排気口の網にも、室内側のほこりなどが付着します。

機械換気製品の取り扱い説明書には3か月に1回の掃除をすべきと書かれているものが多いですが、3カ月も経過するとかなり目詰まりします。

3か月に1回、家全体で6~10カ所もある換気用のフィルターを掃除するというのは、結構大変な作業なので、たいていのご家庭で、現実的には実施できていません。

もし、換気が目詰まりしているのも気づかず、1年以上も放置していると、まず換気量が激減しているので、水蒸気やにおいが室内に溜まり、結露やカビ、においなどが問題を起こしはじめます。

さらに数年放置していると、フィルター自体がボロボロになり、掃除ではなく交換しなければならなくなります。

フィルターが知らないうちに目詰まりし、換気が不十分になり、室内のハウスダストなどが少しずつ増えても、結露が生じていても、住まい手はすぐには換気不良に気づきません。

ふだんはみることのないダクト内部も汚れます

また、フィルターが天井裏や床下にあるタイプなら、フィルターの掃除自体が大変だったり、ダクトのあるタイプなら、ダクト内の掃除は定期的にプロにお願いするしかない、といった問題もあります。

このように、機械換気のメンテナンスはお客様の負担が大きいうえに、メンテナンスをしないと大きな問題も招きます。

ハウスメーカーや工務店の担当者は、住宅を完成お引渡しするタイミングなどに、住まい手ご家族に『換気のフィルター掃除をこまめにやってくださいね』と説明するはずです。 でも、説明しつつも内心では「こまめにフィルター掃除をやってくれるかどうか…」と思っています。それでも、機械換気の使用説明としてそう言わざるを得ないのです。

給気レジスターは厳寒期に結露することもあります

給気が冷たいからと機械換気を止めてしまう

もうひとつの大きな問題は、12月から2月の厳寒期になると、給気口から入ってくる新鮮空気が冷たいため、機械換気を止めてしまいがちだ、という暮らし方の問題があります。寒いときはやむを得ないかもしれませんが、室内の湿度が上がり(水蒸気が増え)、窓が結露しやすくなります。まただんだん暖かくなってきても再運転を忘れていると、室内の空気汚染が心配になります。

止まらない・壊れない「パッシブ換気」

換気方式の主流を占める機械換気は上記のような大きな課題があるものの、住宅会社としては、施工コストも安く、住宅業界の主流でもあるので、課題には目をつぶって、暮らしはじめてからはお客様がご自身の責任で維持作業していただく、という意識でご提案しているのが現状です。

しかし、フィルター掃除の負担の大きさと、室内空気環境による住まい手の健康、そして住宅の劣化防止は、とても大事なポイントのはず。

そこでいま注目されている換気方式が「パッシブ換気システム」なのです。

パッシブ換気は、機械を使わずに換気を行う、換気と暖房を同時に行うという北海道から生まれた省エネルギー住宅技術で、北海道大学の繪内正道名誉教授が提唱し、産学官連携で開発されたシステムです。

工法の普及が進み、これまでおよそ3,000棟のお宅でパッシブ換気が採用され、オーナーが快適に暮らしているとみられています。

住まい手に高い評価をいただき、非常に優れた換気方式だという自信があります。

温度差や風の自然エネルギーを利用する

パッシブ換気システムは室内外の温度差や風を利用して換気を行うもので、暖房シーズンは換気暖房システムとして全館空調となります。その仕組みをわかりやすく説明します。

まず地中埋設管を通し新鮮な外気を屋外から床下に取り入れます。

床下に設置された暖房機で暖められた新鮮空気は暖気の上昇力により1階の足元から2階の天井まで、家中をゆっくりと循環し、同時に汚れた室内の空気を押し上げるように排気筒から排気します。

排気口には、湿度が高くなると換気量が増えるセンサーつきの製品を使います。センサーももちろん電気を使いません。

温かい空気と冷気の温度差と、屋根付近を流れる風といった自然のエネルギーだけで空気を動かすこの換気システムは、ファンモーター(機械動力)を使わないから電力消費がゼロ。換気の作動音もしません。

換気が止まることがないので、室内の空気が安定してフレッシュな状態を維持でき、冬は家全体がもれなく暖かい。室内の壁際などに暖房機を設置する必要がないのもメリットです。一年中快適に暮らせて、家計にも環境にも優しいのが特徴です。

フィルター掃除の呪縛から解放される

このように、パッシブ換気システムはたいへん優秀な仕組みです。

機械を使わないので故障による停止、スイッチオフによる換気不足の心配がありません。外部の新鮮給気吸気口は、下向きになっていることもあり、埃やPM2.5など、空気より重いものは給気口からは入りません。なのでフィルターの設置は必要なく、3か月に1回、家中の10か所以上のフィルター掃除という、かなり実現が難しい呪縛から解放されるのです。

換気量は湿度センサーで制御されており、これまでのたくさんの実証実験と検証、研究と学術論文、そして多くのオーナーさまの声からも、空気質を維持する換気効果は折り紙付きです。

メンテナンスフリーの家づくりが実現したい

住宅は、適切なメンテナンスをしないと劣化が進み、さまざまな問題が生じます。外壁や屋根がその例です。

換気についてのメンテナンスは、フィルターの掃除があります。フィルター掃除をおこたると、換気量が減って室内空気環境に大きな問題を及ぼします。パッシブ換気は、こういったメンテナンス問題がほとんど起きない、または起きにくいメンテナンスフリーの換気システムです。

パッシブ換気の弱点は?

どのような工法、建材にも弱点はあります。パッシブ換気の弱点は、

上記の気密性能、断熱性能を上回らないと、計画通りの換気が機能しない点です。

パッシブ換気を採用できる住宅会社が限定されるのは、施工技術を理解した設計・施工管理者と、腕の良い大工さんがいないと上記の断熱・気密性能が確保できないからです。

たとえ良い換気方式でも、どのハウスメーカー・工務店でも導入できるというわけではありません。

湿度センサーで排気量をコントロールする排気口

NPO法人パッシブシステム研究会は、福島明理事長(北海道科学大学名誉教授)をはじめとした研究者と、志ある工務店が技術を学び、実践を積み重ねることで、これまでもパッシブ換気の普及に努めてきました。

パッシブ換気は誰もが採用できるオープンな工法ですが、中途半端な知識・経験でパッシブ換気を導入しても、空気がしっかり循環しない、家がしっかり温まらない、十分な能力を発揮できないこともあるのです。

パッシブシステム研究会は、パッシブ換気を真剣に学び、採用する工務店が、お互いの情報を公開し、学び合うことで、これまで多くの実績を積み重ねてきました。また、研究メンバーは、さらなる技術開発を進めるとともに、技術アドバイスや改良提案を行うかたちで、いっそうの性能向上に貢献してきました。

オープンな技術にもかかわらず、私たち会員が当会を中心に技術研さんを続けるのは、パッシブ換気の素晴らしさを1人でも多くの皆さまに体感してほしいからにほかなりません。

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