2月18・19日に石狩・新篠津村で第9回「大合宿」を開催しました。
NPOパッシブシステム研究会(繪内正道理事長、北海道大学名誉教授)では、去る2月18・19日に毎年恒例となった第9回大合宿を、札幌近郊の新篠津村・しんしのつ温泉たっぷの湯で開催。『令和の時代の中でパッシブ換気技術の確立と更なる普及を目指してい』をテーマに、当会副理事長で北海道科学大学教授の福島明先生と国立保険医療科学院統括研究官の林基哉先生による講演や、ディスカッション『なんでも話そう生討論』、北海道大学環境科学研究教育センター特任准教授の荒木敦子先生による特別講演などが行われ、約50名の参加者がパッシブ換気技術を研さんするとともに議論を交わしました。
初日は冒頭に繪内理事長が、「1960年代における札幌の乳幼児の死亡率が東京より半減している要因は、札幌のストーブ暖房の普及とそれにともなう室温の確保にあると、疫学的に立証されている。北海道ではやはり室温の確保がとても大事だったということだ。また、1900年から1980年までの米国における感染性疾患の死亡率の変化を見てみると、1910年頃がピークで40年代に入るともう80年代と変わらないレベルまで低減したと言われている。その理由は、住環境の改善、特に空気質や熱環境性能の目覚ましい向上にある。そのような経緯があって今の私たちのパッシブ換気もあるが、長い時間軸の上でパッシブ換気をこれからどうしていくべきか。講演で話題提供して頂く各先生の講演内容も踏まえて生討論に臨んで頂ければ」とあいさつ。
また、実行委員会の佐藤誠委員長(大平洋建業㈱社長)が、「今年の大合宿は新たな取組みとして、少し地方に出てみようかということになり、しんしのつ温泉にお世話になることとなった。いろんな講演や生討論を含めて、みなさんのお気付きの場になればと思う。2日間長丁場になるが、みなさんの力で意義のある会にしていきたい。また、この大合宿を実行するにあたって、実行委員のみさなさんに企画・準備していただいたことにお礼を申し上げたい」と感謝の辞を述べました。
続いて福島先生が『パッシブ換気パーツ維持管理必要性調査結果と機械換気の抱える課題』と題して特別講演を行い、機械換気の課題や、パッシブ換気で採用されたアースチューブの汚れの確認調査結果、ホーム空調採用のポイントなどを紹介。
福島先生は、換気を行うと寒くなり、乾燥感や気流感もあることから、換気は不快にならないように考えないといけないが、換気の設計・施工にかかわる専門家がいないこと、換気が正常か不良か工務店も住まい手もわからないこと、日本では換気本体を小屋裏や天井ふところに設置してしまうために保守が非常にやりにくくなっていることが大きな課題になっていると指摘。そのうえでパッシブ換気の利点として、給気も排気も温度・湿度で制御してデマンド換気を実現でき、ファンやフィルターも不要になることなどを挙げました。
また、パッシブ換気のアースチューブ(地中埋設給気管)については、夏季の結露やゴミ溜まりを心配する声もあるが、これまで施工された6軒の住宅で汚れ具合の調査を行ったところ、築3年の住宅1軒で真夏にわずかな結露があったほかは、築10年の住宅でもゴミの堆積は一切ないことを確認。「年数が経ってくるとだんだん管内の表面が黒くすすけてくるものの、ゴミが溜まっていないのは夏でもちょっとした風で十分空気が流れているからと考えられる。管の径が大きく、流速も遅いために、ゴミやホコリが引っ張られず、溜まることもないのではないか」と調査結果を分析しました。
休憩を挟んで行われた『なんでも話そう生討論』は、参加会員が6つのグループに分かれてパッシブ換気のメリット・デメリットや夏季のエアコン併用、基礎断熱のシロアリや床下空間の清掃方法などについて議論。その内容を各グループの代表者が発表しました。繪内理事長は「夏季にどのようにエアコンを使えば、電気の使用量を抑えて涼房環境を得られるかは、道内で議論していかなければならないことだったので、今日はいい機会になった」と総括。また、同会顧問で北海道大学大学院工学研究院准教授の菊田弘輝先生は「南幌町のみどり野きた住まいるヴィレッジ第1期で空気質測定を行ったところ、パッシブ換気を採用した住宅が一番良好で、1年後に見た床下空間もきれいだった。みなさんも自信を持って頂きたい」と参加会員を勇気づけました。
この後、林先生が『常時換気効果の実態とパッシブ換気の展開』と題して基調講演を行い、気密化と計画換気の実態とリスクなどを解説。
気密性が高いほど、換気の種類によっては壁体内や床下・小屋裏から空気汚染物質が室内に侵入する可能性が高くなること、中間期の換気量確保のために給気温度が高いほど開口面積が大きくなるサーモセンサー付給気口を用いたパッシブ換気では、風の影響もあって夏でも所定の換気量を確保できたことなどを説明し、換気システムのこれからの展開として、機械が壊れた時にも換気量と空気質が維持されるフェイルセーフが必要になってくることを強調。
さらに気密化と換気計画の要点として「各部屋の空気質維持のため十分な気密性能を確保し、壁体内など構造内部からの汚染物質発生に留意するのはもちろん、新しい建材を導入する時には放散物質を確認することが大事。気密測定・換気風量測定もやらないといけない。空気汚染物質の発生源対策としては、材料管理に注意するほか、構造内部からの空気汚染物質も確認できるよう、レンジフード運転時の室内VOC濃度測定を行うのがいい」と、参加者にアドバイスしました。
初日は最後に賛助会員のプレゼンテーションが行われ、続く懇親会では参加会員がパッシブ換気について語り合いながら親交を深めました。
2日目は、最初に前日の「なんでも話そう生討論」の感想発表と、荒木氏による特別講演『私たちの身近な住まいの室内環境と健康』、賛助会員のプレゼンテーションが行われ、閉会となりました。